『よう今回はテロリストの親玉を仕留めたんだって?お手柄だな』
局内に入ると同僚が声をかけてきた。
「ああ」
素っ気なかったかもしれないが、私は一言そう答えて自分のオフィスに戻った。
さすがに今回の仕事はかなり疲れた。
武装反政府組織に乗り込み、そこのリーダーを「無害化」する大仕事を終えてきたからだ。
社会秩序維持法が出来てから設立されたこの社会秩序維持局では、カリスマ性を持つ人間を社会の平穏を乱す危険分子として次々と「無害化」してきた。
通称「カリスマ取締法」だ。
今回のような武装組織や、敏腕経営者、よく当たる馬券の予想師、インターネットで料理レシピが多くの支持を得た主婦までカリスマ性を持つ者たちはすべて反社会分子とみなされている
その潜在的な危険を排除してきた結果、現在の社会では戦争や犯罪の発生が非常に少なくなっていた。
「局長今回の報告書です」
『ああ、ご苦労だったな。もう下がっていいぞ』
私が報告書を提出すると局長はそう言うと、まるで野良犬でも追い払うような仕草で手を振った。
いつもの事だが局長は私に冷たく当たるのだ。
私はこの局で誰よりも多く仕事をこなし社会の危険であるカリスマを排除してきた。
そのため次期局長の座は私になるだろうと言われている。
それが気に食わないのだろう。
だがしかし、この局だけではなくどの分野の役職も現在では名ばかりで仕事の役割を表す物でしかない。
この社会では誰もが平等なのだから。
局長は法案成立前の時代の古いタイプの人間だからしょうがないかもしれないが、 役職に関する嫉妬などは無意味だ。
「では失礼します」
そう言って局長室を去ろうとすると
『ああそうだ、今度の式典で君にスピーチを頼むよ。なんでも君はこの国で検挙率が一番だそうだ』
「はい。わかりました」
私はそう答えドアを閉めた。
厄介なことを押し付けられたが仕方ない。
これも仕事の内だ。
~数日後~
午後になり式場に各地から局員が集められ、私は大勢の聴衆の前でスピーチをする事になった。
「皆さんお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。
今回も私達は非常に大きな反社会分子を排除する事が出来ましたが
それも皆さんの協力のおかげであります。
この局のシステムが効果的に作用した結果ですが
それは社会が健全である証拠です。
健全な精神は健全な肉体に宿ると申しますが
健全な肉体がこの社会であるならば、健全な精神とは我々なのです。
この社会では産まれたばかりの赤ん坊から首相まで誰もが平等です。
私はこれからもこの社会を維持する為の努力を惜しみません。
これからも我々の力で社会を健全に保ちましょう!」
自分でもなかなかいいスピーチだったと思った。
しかしやはり局長は苦い顔をしてこっちを見ていた。
それはいつものことでしょうがないとしても、そのほかの誰もが拍手も弱々しく局長と同じ表情で私を見ているのが腑に落ちなかった。
私のスピーチに何か問題でもあったのだろうか・・・。