『今日、我々人類は、新たな一歩を踏み出すのです!』
世界各国の首脳を前に、壇上から合衆国大統領が語っている。
その演説の語気は段々と熱を帯びていった。
まるでこの地球のように。
2036年、地球の温暖化は人類にとって最も大きく深刻な問題であった。
海面上昇により赤道直下のいくつかの島国はすでに水没していた。
伝染病、食料不足、異常気象による災害の多発。
比較的被害の少ない北側諸国には難民が押し寄せた。
一昔前に科学者が予測していた現象が、次々と現実になっていた。
しかし予測こそされてはいたものの、これまで効果的な対策はなされなかった。
それは温暖化の根本的な原因が未だ解明されていないために、対策をしようにも有効な手だてを打つことができなかったのだ。
しかしこの年、人類存亡の命運をかけ温暖化の原因を突き止める為の世界的なプロジェクトが実行されようとしていた。
『それでは博士にこの計画について説明して頂きます』
合衆国大統領から紹介を受け、一人の男が登場した。
いかにも聡明で自信に満ちあふれた態度。
映画であれば彼が大統領役を演じているところだろう。
この男性がプロジェクトの発案者であり、総責任者のT博士だ。
T博士はスクリーンに映し出された映像について説明を始めた。
もっともこの段階で各国の首脳は計画内容をすでに知っているので、この説明はテレビの中継を観ている世界中の人々に向けられたものであった。
計画とは各国がそれぞれ機能の異なった人工衛星を打ち上げ、地球を全方位から取り囲み、今まで見ていなかった部分も観測するという内容である。
海流・表面そして内部温度・プレートの動き等地球の活動のすべてを記録し、情報を総合的に汲取り温暖化原因を究明しようという壮大なレントゲン検査である。
博士の説明が終わると、スクリーンには別の映像が映し出された。
宇宙から地球を見下ろす為の巨大な「目」を積んでいるロケットである。
これからプロジェクトの1号機の打ち上げが始まるのだ。
演劇の舞台でも観ているかのように段取りよく準備が進みカウントダウンが開始され、ロケットは無事発射された。
世界中の人々は上昇し小さくなっていくロケットを見つめていた。
そしてロケットが宇宙空間に吸い込まれてからもずっと空を見続けた。
その先に人類の明るい未来を見ていたのだ。
~続く~