初めてのハーフマラソン大会に出場した僕は序盤の焦りを捨て、マイペースに徹して走ろうと決めました。
すると徐々に呼吸が落ち着き、周囲がよく見えてくるようになりました。
特別な場所ではないと思っていた河川敷には様々な表情があったのです。
冬の空気を貫く少年野球の金属バットの鋭い音。
草刈りをして集めた草を燃やしている煙のにおい。
サックスを練習している人が奏でる途切れ途切れの音色。
マラソン大会とは違って日課のように散歩している老夫婦。
川面に浮かぶボートと水鳥。
下をうつむいて走っている僕とは対象的な精いっぱい上を見上げている小さな草花から元気をもらい、地面を素早く滑る鳥の影は頭上から「しっかりしろ」と檄を飛ばしてくれるようです。
様々な生き物や現象、色が混じり合い溢れている景色がとても美しく見えました。
それまで見えていなかった世界の広さを感じられたのです。
ずっとそこにあったはずなのに。
楽しさに心も弾み、身体も軽快になっていきました。
景色を全身で味わい、喜びを持って走っているとやがてコースも後半に差し掛かり、もうしばらくすると終わってしまうのだなと名残惜しさすら感じるようになりました。
その頃また別の変化が現れます。
なんと前半で僕を抜かしていった、いかにもランナー然とした人達に追いつき始めたのです。
みんなペースダウンして苦しそうにしています。
マイペースを貫くと決めたら周囲にも勝つことになったのです。
超初心者でやっすい格好の僕が、全身ビシッと決めた人達を追い抜くというのが快感でピッチを上げてどんどん追い抜いていきました。
そして20km地点まで到達。
するとそこには「あと1km」の立て看板が。
え?え?
びっくりする僕。
実は・・・僕はハーフマラソンが20kmで終わりだと思っていたのです!
なんか勝手にキリいいかな〜って( ̄∀ ̄)ハハハ・・・。
20kmをゴールだと思いながらラストスパートしていたので残り1kmが絶望的なほど長く感じます。
他人を気にしないと決めたのに周囲にとらわれて欲を出してしまったからだ・・・。
しかも勝手に自分で作り上げた勝負意識なんて何の役にも立ちません。
抜いたり抜かされた人達は僕の事など気にも留めていなかったでしょう。
またそこで僕は教訓を得ました。
そして走ってきた中を振り返ってみると、全て人生に例えていたことに気付きました。
「マラソンは人生の縮図だ」
よくありがちなその言葉が確かな実感を伴って理解できたのです。
この日のマラソンは自分を見つめることができ、とても楽しくて素晴らしい経験でした。
世の名言という物は実体験を通じて感じた物でなければ単なる紙の上の文字でしかありません。
五感を働かせて得た実感ほど確かなものはないでしょう。
スポーツでもなんでも見るより実際にやったほうがいいんだと思います。
マラソンは本当に楽しかったです。
興味のある方は始めてみてはいかがでしょうか。
新しい世界、新しい自分に出会えるはずです。
ちなみに僕はその1ヶ月後に花粉症になってやめました。