往年の熱狂的なスターウォーズファンにとって旧三部作は聖書とも言える重大な作品です。
その前時代を描いたプリクエル(エピソード1、2、3)の歴史は信者達の大きな期待に応えることができませんでした。
僕はエピソード1ファントムメナスに関しては良い作品だったと思います。
帝国支配以前の多様性のある文化、景観。
ポッドレースの疾走感溢れるスリル、邪悪の化身ダース・モールとの激しい決闘は興奮を伴った感動がありました。
一言で言うならば「超かっこいい」
しかしその後エピソード2、3は物語を旧三部作へ繋げるためだけに存在しているようで失速してしまった印象を受けてしまいました。
ですがその作中では常にルーカスを頂点とした制作側の技術革新やキャラクター造りに対する挑戦的な意識が感じられました。
その前進することへの飽くなき姿勢が裏目に出てしまったのか、ファンの中にはついて行くことができなかった者も多かったのです。
スターウォーズの存在とは革新であったはずなのに。
(既存の神話体系の「革新的な焼き直し」とも言えます)
多くの信者が落胆する中にもたらされた、エイブラムスによる夢の国からの福音「フォースの覚醒」は、圧倒的多数に賛美され受け入れられることとなりました。
ルーカスが自分の脚本がディズニー社に受け入れられず制作から降りたという点も問題ではなかったのでしょう。
それどころかファンの期待する作品作りへの追い風とさえなりました。
創造主はルーカスからディズニー・カンパニーへ姿を変え、信者は知ってかしらずか新しい神と契約を結ぶこととなったのです。
2015年はまさにスターウォーズ神話の旧約から新約への大きな転換点と言えます。
ディズニー社の「大いなる視点」マーケティングリサーチとはしたたかなもので、ファンの意にそぐわないとして映画の中で自社ロゴの使用を取りやめたほどです。
その点に安堵したファンも多いようですが、本編前のロゴなどは物語に関係することではありません。
それはプレゼントの包装紙にケチをつけるようなものです。
そうやって外側に気を取られている間に、プレゼントの中身は全くの別物とすり替えられていたのです。
それほどスターウォーズの内部の世界は大きく書き変えられていました。
神の手によって。
それは作中の倫理観にも表れています。
実際の旧約聖書は現在では受け入れられないような説話も描かれています。
神が人間を滅ぼし、近親相姦、生贄、奴隷を認めることがありました。
SW旧三部作では女性の扱いたるや悲惨なものでした。
レイアは首に鎖を繋がれ、肌も露わな衣装の奴隷として扱われます。
踊り子、娼婦として売買されるトワイレックがランコアに食べられるのを眺めながら下卑に笑うジャバとその取り巻き達。
プリクエルではアミダラの手首に鎖が巻かれます。
シミは奴隷ですがさほど過酷に扱われる様子はなし。
(タスケンに虐待されて命を落としましたがその詳細な描写はなし)
新シリーズでは女性は強く中心的な存在となっています。
まず主人公が女性(レイ)。
反乱軍リーダー(レイア)も、ファーストオーダー兵長(ファズマ)も女性。
「女性活躍社会」はいいんだけどバランスというか説得力がないよね。
特にファズマ。(←未だに納得できない)
そのうち同性愛の描写も出てくるかもしれません。
現代の価値観からすると旧三部作の倫理観というものは本当にひどいのですが、その闇の部分が帝国軍やならず者達が支配する暗鬱たる世界にリアリティーをもたらしていました。
しかしこれから先、命がかかる争いの世界を描くとしても決して「オンナの首に鎖を巻く」ことなどないでしょう。
宗教が人々の望みを肯定することによって信者を獲得してきたように、スターウォーズもディズニー社がファンの期待を取り入れながら形にしていきファンの望む、いえ「理解できる」範囲を真理とみなすことで法悦を多くの人々に与えることができました。
時代の変化に即した世界を構築することによって新たなファンも獲得し、これからの繁栄を確固たるものとしたのです。
しかし、それは常に宗教が人間側の思惑によって解釈が捻じ曲げられてきた歴史と重なります。
多数の希望を際限なく肯定していくことで教義はいつしか形骸化していきます。
そこで語られる希望とは欲望に装飾を施した言葉でしかありません。
新約スターウォーズは信者の刹那的で無軌道な欲望を満たしディズニーが利益を得るための道具に成り下がったと断じざるをえません。
しかし何よりも嘆かわしいのはそれを喜んで受け入れる者が多数いる、いいえ、ファン自身の意思によってそうなったという事実です。
「ルーカスが関わらなくてよかった」なんてのたまう者も・・・。
人間は昔から自分の気に入らないものは神様ですら殺してしまうのです。
僕は旧約神話への信仰だけを拠り所としてこれから生きていきます。
タトゥーインの岩山で隠者として過ごしてきたベンのような心境です。
まあ次回作も観に行くんですけどね。