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映画「ハート・ロッカー」アメリカが戦争をやめられない理由

ハート・ロッカー

もう何年も前に観た映画ですが心に残っている作品です。

初めは"Heart Rocker"なのかと思っていました。

戦争が心揺さぶるものでアメリカがいかに戦争狂なのかということを描いている映画なのかなと。

でも本当は"Hurt Locker"でした。

別の意味に捉えられてしまう日本語表記の弊害でもありますが、僕にとっては単純な予想を裏切るいい結果となっていました。

この言葉の意味は棺桶、極限に追い込まれた状態、戻りたくない場所とのこと。

ボコボコにしてロッカーに閉じ込めるイジメが由来のようです。

 

中心となる人物は、若く貧しい知的階級ではない白人兵士、エリートで冷徹な黒人兵士、死の危険を顧みない熟練兵士(主人公)です。

この3人を軸にしてストーリーが進みますが、単純な戦争批判でも賛美でもなく様々なタイプのキャラクターをぶつけ合うことによって「なぜアメリカが戦争を続けてしまうのか」の根本原因を炙り出していると思います。

 

チームとなった3人がお酒を飲んで互いに殴り合うシーンがあります。

年齢も人種も性格も違う3人は仲違いもするのですが「痛み」によって団結します。

男の「肩パン」文化ですね。

 

しかしその団結も真の相互理解ではありませんし状況によってすぐに崩れてしまいます。

若い兵士は戦争を理解しておらず被弾の痛みによって死への恐怖が実体となり帰還を望みます。

黒人兵士は頭では理解しているもののその想像を超えた危険に戦場を恐れてしまいます。

2人にとって戦場は「ハート・ロッカー」戻りたくない場所になるのです。

でも主人公だけは危険な行為を自ら続け危険中毒、戦争ジャンキーのように見えます。

しかし彼は戦場に居たい訳ではなくアメリカにいることが耐えられないのです。

帰国して庭掃除をし、膨大な種類のシリアルを見つめるシーンでそれを表現しています。

(元)妻、子供、安全で豊かな生活。普通の幸せがある人生。しかしそれこそが主人公にとっての「ハート・ロッカー」というわけです。

自分を見つめることの苦しみ、達成感への渇望、生きている実感が欲しいという感じでしょうか。

深く理解していないから、利己的だから、理想があるから、平穏な日常に耐えられないから。

アメリカにはあらゆる人間の層があり、そのままでは団結は困難なのです。

それは"United States"という国名にも表れているのではないでしょうか。

アメリカは州によって法律も文化も違うかなり多様性のある国だとのことです。

もはや小さい国の集まりと言ってもいいのかもしれません。

そんな国、国民が団結するための「痛み」が戦争なのではないでしょうか。

ろくに考えもせずに始める者もいれば、利益によって始める者もいる。

一つの理由ではなく多くの理由があって戦争に参加するのですが、戦っている最中に各個人の理由などは関係なく団結することができる、逆に言うと何か共通の敵と戦っていなければアメリカはバラバラになってしまうのではないのでしょうか。

そもそもが南北に分かれて戦ってできた国ですからね。

 

現在の大統領選候補のトランプさんはアメリカ優先主義によって戦争をやめようとしている人です。

この理論からいくと戦争をやめたら団結が無くなりそうな感じですが、トランプさんは排外主義を掲げているので外側に敵を作り出すことができています。

そこに「戦い」を生み出しているから団結、支持を集められているのではないでしょうか。

対国家間の戦争を別の形に置き換えたというわけです。

ただし前回は自分が分断の元になってしまったわけですが。

 

アメリカが戦争を続けるにせよやめるにせよ、団結することが困難なアメリカはこれからも何らかの形で「戦い」を続けていくのでしょう。