「虐殺器官」の続編である「ハーモニー」の感想です。
SF小説ではアーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」鈴木光司「ループ」
漫画では「ARMS」を彷彿とさせました。
キァハの全人類巻き込んだろみたいな子供っぽさなんか特にARMSのアリスと共通しています。(もちろんその点だけではありません)
ちなみに僕は読書をする方ではないので前回と合わせても言及できるのはこんなもんです。
ハーモニーには感傷的でナイーブな空気が満ちています。
思春期の少女の繊細さを描写しているから、ということもありますが著者の置かれていた状況がそうさせていたのではないでしょうか。
著者である伊藤計劃氏は最後の闘病生活の中でこの作品を書いていました。
その結果として自らの死が迫ってくる恐怖や諦めのような感情がキャラクターの中に透けて見えるようで、その時の彼の状況を想像してしまい読みながら胸が苦しくなりました。
これは彼の作品を読んだ誰もが思うことであり、その完全なる断絶と喪失感が彼の作品へ没頭させ評価を上げている要因の一つでもあるでしょう。
ところで虐殺器官でもハーモニーでも宗教に対する批判というか矛盾を突き付けるような姿勢が見られます。
しかしその宗教はキリスト教やイスラム教といった一神教が対象であり仏教は含まれていませんでした。
なぜなら仏教*1は彼の批判や疑問に答えを出してしまうからです。
説明されると作品としてはつまらないですからね。
ネタバレにはならないと思いますが、ハーモニーの最後は仏教でいう預流果(よるか)の境地だと思います。
と言っても作者が仏教を避けた理由は単にネタにしにくかっただけだと思うのでこれは個人的な印象論なのですが、最終的に仏教の悟りの初歩に至ったことも死と向き合ったからなのではないでしょうか。
そして両作ともに人間が行う愚かな行為へ批判を投げかけつつも、人類全体の幸福を願っているような伊藤計劃氏の深い優しさを感じ、彼の才能だけでなく存在事態の喪失がより惜しまれてなりません。